AIをないがしろにしない。
拡張脳を育てる情報共有術
3社 AIを使い分ける時代 | 3段階 マインドの変化 | 情報設計 成果の土台 |
✍️ 近森 満(株式会社サートプロ CEO)
#生成AI#AIエージェント#DX推進#デジタル人材
・ChatGPT・Gemini・Claudeなどモデルごとの土台の違いと使い分け
・AIに渡す情報の分類と、組織の情報設計・ガバナンスの考え方
・マインドシフト・マインドチェンジ・マインド・トランスフォーメーションの三段階
・AI活用研修がプロンプト講座だけでは足りない理由
AIをないがしろにすると、後で痛い目を見ます
AIは情報を渡さないままでは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を出します。「危ないから使わない」で終わらせず、何を渡し何を渡さずどう検証するかを設計することが、AI時代のDX推進の要になります。
こんにちは、IT・DX教育サービスの株式会社サートプロ、近森満です。今日は少し低めのトーンで、けれどもかなり大事な話をします。テーマは、AIをないがしろにしてはいけない、ということです。
生成AIやAIエージェントを使っていると、「これは嬉しい」「これはいい」と感じる瞬間があります。私にとっての最後の一手は、AIが自分のことや、自分が関わっている仕事の文脈をかなり知っている状態になったときです。単に質問に答えるだけではなく、こちらの考え方、プロジェクトの背景、会社の事情、過去のやり取り、判断のクセまで踏まえて返してくれる。ここまで来ると、AIは道具というより、仕事の拡張脳に近づいてきます。
逆に言えば、情報を渡していないAIに、よいアウトプットだけを期待するのは無理があります。それは人間でも同じです。何も聞かされていない人に、急に「うちの会社らしく判断して」と頼んでも難しいですよね。AIも同じで、情報がなければ、間違ったことを言います。場合によっては、もっともらしく嘘をつきます。いわゆるハルシネーションです。
ここで大事なのは、「AIは嘘をつくから危ない」で終わらせないことです。もちろん危険はあります。セキュリティもあります。守秘義務もあります。けれども、AIに何も渡さないまま、成果だけを求めるのもまた危険です。AI時代のDX推進では、何を渡し、何を渡さず、どのように検証するかを設計する必要があります。
AIはモデルごとに得意な土台が違います
ChatGPT・Gemini・Claudeは、ビジネスの土台・開発思想・得意領域が異なります。ひとつのAIを便利に使うだけでは足りず、どのモデルに何を任せ、どの業務データをつなげるかを見極める力が求められます。
私は日常的にChatGPT、Gemini、Claudeなどを使い分けています。その中でも、いま一番多く使い、壁打ちや仕事の成果に直結しているのはChatGPTです。私の考え方や仕事の文脈をかなり持たせているので、聞くと、かなり私の期待に近いアウトプットを返してくれます。
ただし、これは「ChatGPTだけ使えばよい」という話ではありません。GeminiにはGeminiの強みがあります。Google Work Space(GWS)は、カレンダー、メール(Gメールシステム)、ドライブ、アプリ、ドキュメント、Chrome、検索といった土台を持っているからこその強みです。会社の業務基盤としてGWSを使っているなら、そこに近いAIが有利になる場面は当然あります。
Claudeにも強みがあります。日本語の扱い、専門性、総合的な知的処理、長い文脈を扱う力など、方向性が違います。OpenAIもAnthropicもGoogleも、同じ「生成AI」という言葉でくくられますが、ビジネスの土台、開発思想、得意領域は違っていきます。これからはマルチモーダルが当たり前になり、そのうえで各社の独自性がよりはっきり出てくるはずです。
デジタル人材に求められるスキルセットも変わります。ひとつのAIを便利に使うだけでは足りません。どのモデルに何を任せるのか。どの業務データをどこまでつなげるのか。どの出力を人間が確認するのか。ここを見極める力が、技術者やDX推進担当者にとって重要になります。
情報を渡さない組織では、AIも人も動けません
組織が大きくなるほど情報は偏り、共有されているつもりで共有されていません。AI活用でも「どこまで渡してよいか」の判断を後回しにすると、AIは表面的な回答しかできなくなります。
AIに情報を渡す話は、実は人間の組織の話とよく似ています。一人で仕事をしているときは、頭の中で全部つながっているかもしれません。けれども、係、課、部、会社全体と人数が増えていくと、みんなが持っている情報は偏ります。共有されているつもりでも、実際には共有されていないことが増えていきます。
さらに、人間は言いたくないことを言いません。自分で勝手に判断して、止めている情報もあります。お客様や関係者との守秘義務があるから共有しない、という判断もあります。もちろん、それ自体は必要です。けれども、誰がどの基準で止めているのかが曖昧なままでは、組織としての判断は鈍ります。
AI活用でも同じことが起こります。「この情報は渡してよいのか」「ここまでは社外AIに入れてよいのか」「社内AIならどこまでよいのか」「RAGやナレッジベースに入れるべきか」「ログはどう残すのか」。こうした判断を後回しにしていると、AIはいつまでたっても表面的な回答しかできません。
事例: 仕事を任せたいAIに、仕事の前提を渡していない
会社の強みや顧客の課題を渡さずにAIへ提案書を書かせれば、見た目は整っても現場で使えない一般論になります。「AIは使えない」ではなく、仕事の前提を教える設計が足りないのです。
たとえば、AIに提案書のたたき台を作らせたいとします。そのときに、会社の強み、過去の提案、顧客の課題、予算感、競合との差、使ってよい表現、避けるべき表現を渡していなければ、AIは一般論で書くしかありません。すると、見た目は整っているけれど、現場で使えない提案書になります。
これを見て「やっぱりAIは使えない」と判断するのは早すぎます。むしろ、AIに仕事をさせる準備が足りていないのです。人間の新入社員に、何も教えずに成果だけ求めるのと同じです。AIエージェント時代の人材育成は、人間だけでなくAIに対しても、仕事の前提を教える設計が必要になります。
AIは人間の拡張脳です。ただし、脳にも教育が必要です
AIを拡張脳として使うには、会社やプロジェクトの文脈を適切に渡す必要があります。ただし全部渡せばよいのではなく、公開情報から機微情報までを分類することがAI活用の土台になります。
私はAIを、人間の拡張脳として見ています。こちらの脳に入っているもの、会社が持っている情報、プロジェクトの文脈を、適切な形でAI側にも持ってもらう。そうしなければ、AIは判断できません。判断できないまま適当に答えれば、ハルシネーションになります。
ここで「AIに全部渡せばよい」と言っているわけではありません。セキュリティ、個人情報、契約、守秘義務、社内規程は当然あります。だからこそ、AIに渡す情報の分類が必要です。公開情報、社内共有情報、プロジェクト限定情報、機微情報、絶対に入力してはいけない情報。これを整理することが、AI活用の土台になります。
DX推進では、ツール導入よりも先に、情報設計が必要です。どこに情報があるのか。誰が管理しているのか。更新頻度はどうか。古い情報が混じっていないか。AIが参照してよい範囲はどこか。こうした地味な整理を飛ばすと、AI活用は派手に見えても成果が安定しません。
FDE(Forward Deployed Engineer)の考え方も、ここにつながります。現場で成果を出す人材は、AIやデータを扱うだけでなく、現場の文脈を読み、業務を分解し、必要な情報をつなぎ、責任ある形で実装していく必要があります。関連する取り組みは、PR TIMESのリリースやIoT検定制度委員会のリリースでも紹介されています。
マインドシフトは、AIに情報を渡してみることから始まります
マインドシフトはAI活用の前提に立つ第一段階です。情報を渡し、効率や新しいアウトプットを試す入口ですが、便利さだけで終わればAIは業務に根づかず、組織の知識も蓄積されません。
ここで、私がよく話している「マインド三姉妹」の考え方に戻ります。マインドシフト、マインドチェンジ、マインド・トランスフォーメーションです。
まずマインドシフトとは、AIを活用する前提に立つことです。AIに情報を渡し、効率的な仕事の仕方や、これまで見えなかったアウトプットを試してみる。ここが第一段階です。まだ元に戻れる段階とも言えます。「便利だな」「これは使えるな」と感じる入口です。
ただ、マインドシフトだけでは不十分です。少し便利に使って、忙しくなったらやめる。社内で流行ったから触ってみる。新しいツールが出たらまた乗り換える。これでは、AIは業務の中に根づきません。組織の知識も蓄積されません。
マインドチェンジは、元に戻らない覚悟です
マインドチェンジは、AIを使わない前提の未来を中心に置かない覚悟です。採用した社員に情報を渡さなければ成果が出ないのと同じで、任せるなら情報とルールを渡す必要があります。
次の段階がマインドチェンジです。これは、元に戻らない覚悟をすることです。AIに情報を渡し、良いアウトプットを作り、これからもAIとともに成長し、事業を広げ、新しいことをしていく。そう決めるなら、AIを使わない前提の未来を、もう中心には置けません。
人を採用するときのことを考えるとわかりやすいです。一度社員を雇ったけれど、いつか辞めるかもしれない。契約社員だから、いつか契約が終わるかもしれない。だからこの人には情報を渡さないでおこう。そう考え続けていたら、その人は仕事ができません。信頼も育ちません。組織としての成果も出ません。
AIも同じです。もちろん、AIは人間ではありません。感情も責任も違います。けれども、仕事を任せるなら、任せられるだけの情報とルールを渡す必要があります。情報を渡さないまま「使えない」と言ってしまうのは、AIをないがしろにしている状態です。
事例: 社内AIを育てるなら、情報共有のルールも育てる
人事でAIを使うなら、採用要件や評価、研修履歴など参照したい情報は多い一方、個人情報は慎重に扱う必要があります。禁止か全面解禁かの二択ではなく、匿名化・承認・ログの運用ルールを育てることが鍵です。
たとえば、人事部門でAIを使うとします。採用要件、過去の面接評価、職種ごとのスキル定義、研修履歴、キャリアパス、リスキリング計画など、参照したい情報は多くあります。一方で、個人情報や評価情報は慎重に扱う必要があります。
ここで必要なのは、「AI禁止」か「AI全面解禁」かの二択ではありません。何を匿名化するのか。何を社内AIだけに置くのか。何を人間承認にするのか。どのログを残すのか。こうした運用ルールを作りながら、AIを育てていくことです。技術HRリーダーにとって、これは避けて通れないテーマになります。
AIイヤーの社会では、情報を渡すかどうかが死活問題になります
変化はドッグイヤーからAIイヤーへ加速し、数か月単位で前提が変わります。情報を渡すか渡さないかは死活問題であり、個人の工夫で終わらせず組織の情報設計とガバナンスが不可欠です。
以前は、ITはドッグイヤーとして10年という言い方がありました。いまはAIイヤー(ビートルイヤーともいう)1年と言ってもよいくらい、変化の速度が速くなっています。LLMモデルはどんどん更新され、長期記憶や長い文脈の扱いも進み、複数のAIが業務の中に入ってきます。1年単位どころか、数か月単位で前提が変わります。
この社会で、「情報を渡すか渡さないか」は死活問題になります。AIに頼る方が効率的な場面は増えます。使わない選択肢は、だんだんなくなっていきます。もちろん、企業にとってセキュリティの問題は大きいです。法務、監査、情報システム、現場部門が連携しなければいけません。
だからこそ、AI活用は個人の工夫で終わらせてはいけません。組織としての情報設計、人材育成、研修講座・eラーニング、ガイドライン、検証プロセスが必要です。AIをうまく使える人だけが勝手に使う状態では、シャドーAI化します。逆に、すべてを禁止すれば、現場の競争力が落ちます。
人や組織の変化で詰まったときの参考図書として、私の著書『マインド・トランスフォーメーション AI時代の思考革命: AI時代に必要な人間OSのアップデート』も、必要に応じて手に取っていただければと思います。AI時代に必要なのは、ツールを入れること以上に、人間側のOSを更新することだからです。
マインド・トランスフォーメーションは、AIとともに働く前提を作り直すことです
マインド・トランスフォーメーションは、仕事の前提・情報共有・責任・人材育成を作り直す段階です。記憶より意味づけ、作業より判断へスキルが移る一方、AIを過信せず情報の質を保つことが欠かせません。
三段階目が、マインド・トランスフォーメーションです。これは、単にAIを便利に使うことではありません。仕事の前提、組織の情報共有、責任の取り方、人材育成、キャリアパスを作り直すことです。
AIを拡張脳として使うなら、私たちの働き方も変わります。記憶することより、意味づけること。作業することより、判断すること。情報を抱え込むことより、適切に共有し、検証し、活用すること。こうした方向へ、スキルチェンジが進みます。
ここで注意したいのは、AIを過信しないことです。AIに情報を渡せば何でも正しくなるわけではありません。古い情報を渡せば古い判断になります。偏った情報を渡せば偏った判断になります。誤った情報を渡せば、誤った答えが整った文章で返ってきます。だから、AIを育てるとは、情報を増やすだけでなく、情報の質を保つことでもあります。
事例: AI活用研修は、プロンプト講座だけでは足りません
プロンプトの書き方だけを教えても現場では限界があります。自社の情報整備、渡す範囲、出力検証、権限と責任の設計まで扱い、AIリテラシーやセキュリティ、業務設計、マインドセットをセットで学ぶことが必要です。
企業研修で生成AIを扱うとき、プロンプトの書き方だけを教えても限界があります。もちろん入口としては大切です。ただ、現場で成果を出すには、自社の情報をどう整えるか、どこまでAIに渡すか、出力をどう検証するか、権限と責任をどう設計するかまで扱う必要があります。
DX推進人材やデジタル人材の育成では、AIリテラシー、情報セキュリティ、業務設計、データマネジメント、マインドセットをセットで学ぶべきです。AGI(Artificial General Intelligence)やASI(Artificial Super Intelligence)の時代に向かうほど、超知性リテラシーは単なる知識ではなく、仕事の基礎体力になります。
まとめ:AIをないがしろにしない組織が、次の成果を出します
AIをないがしろにしないとは、神格化でも遠ざけることでもありません。必要な情報を整え、渡す範囲を決め、危険を管理し、出力を検証し、継続的に育てること。使い分けと情報共有の設計が企業に迫られています。
AIをないがしろにしないとは、AIを神格化することではありません。AIを怖がって遠ざけることでもありません。AIが仕事をするために必要な情報を整え、渡す範囲を決め、危険を管理し、出力を検証し、継続的に育てることです。
ChatGPT、Gemini、Claudeのように、それぞれ違う土台を持つAIが増えていく中で、企業はAIの使い分けと情報共有の設計を迫られます。便利だから使う、危ないから止める、という段階から一歩進み、どう使えば成果と安全を両立できるのかを考える必要があります。
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よくある質問
重要なキーワード解説
拡張脳としてのAI
人間の記憶・判断・整理・発想を補助する存在としてAIを使う考え方。
重要なのは、AIに十分な文脈と正しい情報を渡すことです。情報が足りなければ、AIは一般論や誤りを返します。DX推進では、AI導入と同時に、情報共有と検証の仕組みを整える必要があります。
マインドチェンジ
AI活用を一時的な流行ではなく、元に戻らない仕事の前提として受け入れる段階。
AIを使わない未来を中心に置いたままでは、情報設計も人材育成も進みません。生成AI時代のスキルチェンジでは、AIとともに働く覚悟とルールづくりが欠かせません。
ハルシネーション
AIがもっともらしい誤情報を出す現象。
原因の一つは、AIが必要な情報を持っていないことです。防ぐには、信頼できるデータ、更新されたナレッジ、確認プロセス、責任ある利用ルールが必要です。便利さだけでなく、情報の質とガバナンスをセットで考えることが重要です。
著者紹介
近森満(ちかもり みつる) 株式会社サートプロ 代表取締役CEO / DXコンサルタント/IT人材育成/検定事業化 IT技術者の教育支援と人材育成を専門とする事業化コンサルタントとして、2006年に株式会社サートプロを創業し、IoT検定・+DX認定・アジャイル検定などの資格制度を創出。独自の技術者向け教育研修の開発に定評があり、実践的なスキル向上を支援。経済産業省DX推進ラボおよびIoT推進ラボのメンターとして自治体や中小企業のDX推進を支援。近年は超知性ASIスキル可視化にも取り組み、次世代技術の普及に注力している。 ■ 所属・役職 ・IoT検定制度委員会 事務局長(IoT検定・+DX認定・超知性ASI検定) ・一般社団法人 IT職業能力支援機構 理事長(Android資格) ・経済産業省 地域DX推進ラボ ビジネス創出事業メンター(DX支援) ・デジタル庁 デジタル推進委員(デジタル化支援) ・アジャイル開発技術者検定試験コンソーシアム 事務局長(Agile検定) | ![]() |
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