AIを導入したのに使われないのはなぜ?FDEが担う現場定着

AIを導入したのに使われないのはなぜ?FDEが担う現場定着

AIを導入し、研修も行ったのに、いつもの仕事へ戻ってしまう。そんなときは、操作の習得だけでなく、業務の流れ、確認の負担、利用者の不安、運用する担当を見直す必要があります。FDEが担う「導入後の現場定着」を、確認する順番から考えます。

本文更新:2026年10月15日

目次

使われない理由を、機能不足だけで説明しない

業務の目的、使う場面、前後の手順を確認します。

AIを入れた。チャットボットを作った。業務アプリも試した。けれど、現場の仕事の流れは変わらない。評価制度も変わらない。データの持ち方も古いまま。結局、便利なツールが一つ増えただけで終わってしまう。こうした状態は、かなり多くの企業で起きています。

ここで必要になるのが、技術と現場の間に入る人です。単に「できます」と言う人ではなく、「この業務なら、まずここを変えないと成果になりません」と言える人です。ユーザーの言葉を技術の言葉に翻訳し、技術の制約を業務の言葉で説明し、必要ならその場で試作し、運用まで伴走する人です。私は、この役割こそがFDEの中心だと考えています。

定着していないときは、利用回数だけで判断せず、どの仕事で止まったかを聞きます。入力が増えたのか、答えを確かめにくいのか、従来の手順と二重になったのか。原因が違えば、追加する機能や研修も変わります。

つまずく場面確認すること改善の例
使い始めない目的と対象業務が伝わるか一業務で実演し、利用者に試してもらう
出力を使えない根拠と品質を確認できるか元資料との照合方法を整える
続かない従来手順と二重になっていないか前後の受け渡しを見直す
担当者に依存更新・例外対応を引き継げるか手順と相談先を残す

利用者の不安と、既存の仕事を続ける理由を聞く

反対を個人の姿勢の問題にせず、設計の条件として受け止めます。

現場で見ると、DX推進の失敗は技術不足だけで起きるわけではありません。むしろ、業務の目的が曖昧なままツールを入れたり、現場の不安を置き去りにしたり、責任の所在が曖昧なままPoCを始めたりすることで止まります。若い技術者がそこに気づけるかどうかは、これからのキャリアパスに大きく影響します。

石川高専の学生向けにDX入門の講座を準備していたときも、技術を誰の課題へ接続するかを伝える必要を感じました。若い技術者に限らず、利用する人の仕事を理解することが実装の入口になります。

現場へは「なぜ使わないのか」と責めるより、「この手順で困るのはどこか」と尋ねます。失敗した場合の負担や例外を知る人の声を、試作を直す材料にします。

一つの業務で、使う前後の流れをつなぐ

AIの出力を、次に担当する人が受け取れる形へ整えます。

しかしAIやデジタルサービスでは、導入後の支援こそが成果を左右します。ユーザー企業の業務は、ツールの画面だけでは理解できません。データの入力ルール、部門間の力学、現場の心理的な抵抗、既存システムとの接続、セキュリティ、評価制度、教育計画。これらを見ながら調整する人が必要です。

例えば問い合わせの下書き支援なら、資料を探す、下書きを作る、根拠を確かめる、修正して回答する、という流れ全体を見ます。生成が速くても、根拠の確認に時間がかかれば、使い続けにくくなります。これは業務設計の例です。

更新する資料、確認する人、例外時の相談先を決めます。利用者に試してもらい、元の方法へ戻せる範囲で改善すると、実際の仕事に合う条件が見えてきます。

定着を確かめる指標と、改善する担当を置く

利用量に加え、品質・負担・継続して使えるかを見ます。

また、評価制度も変える必要があります。FDE的な人材は、単独で成果を出すというより、現場と技術、経営と実装、ユーザーと開発をつなぐことで価値を出します。そうすると、コードの行数やチケット処理数だけでは評価しきれません。現場の定着率、業務改善の継続性、社内の学習効果、AI活用による意思決定の改善など、少し長い目で成果を見る必要があります。

何を定着と呼ぶかは業務ごとに決めます。対象の仕事で利用されているか、確認と修正の負担はどうか、担当者が更新できるかを見ます。試行中の評価と、通常運用を続けた後の評価も分けます。

ここで注意したいのは、FDEを便利な何でも屋にしてはいけない、ということです。現場に入れる、AIもわかる、業務も聞ける、資料も作れる。そうなると、つい全部を任せたくなります。しかし役割が曖昧なまま負荷だけが集中すると、優秀な人ほど疲弊します。FDEを育てるなら、権限、責任、期待成果、支援体制をセットで設計するべきです。

定着の支援を、人材育成と運用へ引き継ぐ

利用者が自分たちで改善できる状態を目指します。

たとえば、エンジニア採用では、コーディング力だけでなく、顧客理解、業務分析、コミュニケーション、プロトタイピング、データ活用、生成AI活用、リスク説明の力をどう見るかが問われます。社内のリスキリングでは、既存社員がFDE的に動けるようになるため、どの研修講座・eラーニングと実践課題を組み合わせるかが重要になります。

研修には実際の業務に近い題材と、結果を確かめる演習を含めます。導入担当だけが使える状態から、利用者が判断と例外を説明できる状態へ進むためです。研修全体の設計は、人事向けの関連記事で詳しく扱います。

定着しない理由が技術ではなく、データ、業務分担、上司の確認にあることもあります。FDEの担当範囲と、現場・管理職・IT部門が支える範囲を合わせて見直しましょう。

よくある質問

AIが使われないなら研修を増やすべきですか?

操作が原因なのか、業務の流れや確認負担が原因なのかを先に確かめます。理由に合わせて研修や設計を見直します。

利用率が高ければ定着したと言えますか?

利用回数だけでなく、業務で役立つか、品質や確認負担、更新を続けられるかも見ます。目的に合う指標を決めます。

現場が反対する場合はどうしますか?

不安や例外の理由を聞き、試す条件へ反映します。まず小さく確かめ、結果を利用者と共有します。

FDEは導入後の全責任を負いますか?

担当範囲と期待する成果を明確にし、現場、IT部門、管理職、運用担当の分担を決めます。一人へ全てを集めないようにします。

最初に何を確認すればよいですか?

一つの業務について、誰がどこで使う予定だったか、実際にはどこで止まるかを聞きます。機能の追加は原因を確かめてから考えます。

著者紹介

近森満(ちかもり みつる)
株式会社サートプロ 代表取締役CEO / DXコンサルタント/IT人材育成/検定事業化

IT技術者の教育支援と人材育成を専門とする事業化コンサルタントとして、2006年に株式会社サートプロを創業し、IoT検定・+DX認定・アジャイル検定などの資格制度を創出。独自の技術者向け教育研修の開発に定評があり、実践的なスキル向上を支援。経済産業省DX推進ラボおよびIoT推進ラボのメンターとして自治体や中小企業のDX推進を支援。近年は超知性ASIスキル可視化にも取り組み、次世代技術の普及に注力している。

・IoT検定制度委員会 事務局長(IoT検定・+DX認定・超知性ASI検定)
・一般社団法人 IT職業能力支援機構 理事長(Android資格)
・電気・電子系技術者育成協議会 副理事長(E検定)
・経済産業省 地域DX推進ラボ ビジネス創出事業メンター(DX支援)
・デジタル庁 デジタル推進委員(デジタル化支援)
・アジャイル開発技術者検定試験コンソーシアム 事務局長(Agile検定)
・一般社団法人国際サイバーセキュリティ協会 事務局長(IACS認定)
近森満
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