FDEに必要な目利き力とは?事業と現場の課題を見極める視点
FDEの目利き力は、よいAIを選ぶ力だけではありません。事業の目的、現場の仕事、その会社の顧客、すでにある強みを理解し、何を変えるべきかを判断する力です。地域支援での経験を手掛かりに、実装前に見る視点と聞く順番を整理します。
本文更新:2026年10月15日
目利き力は、事業を理解してから技術を選ぶ力
経営者は会社の目的、ビジョン、強み、課題を抱えています。現場には業務、人、設備、オペレーション、暗黙知があります。さらに、その会社のお客様、商流、地域の事情、競争環境があります。FDEが見るべきなのは、この全体像です。売上や製品だけを見ても足りません。どこに売っているのか、誰に価値を届けているのか、なぜその会社が選ばれているのか。そこまで見て初めて、事業を理解したと言えるのではないでしょうか。
金融庁の「業種別支援の着眼点」は、金融機関等の事業者支援に向けた知見を業種ごとに整理した資料です。本稿では、その事業を理解する視点を、FDEの現場理解へ応用します。金融上の評価や融資判断を解説するものではありません。
ここで大事なのは、企業支援の出発点が「ツール導入」ではなく「事業理解」だという点です。生成AI前のDX支援では、システムを入れる、業務を効率化する、部分最適の改善をする、といった話に寄りがちでした。もちろん、それは大切です。けれども、それだけでは会社全体の成長や変革につながらないことがあります。
四つの視点で、現場の言葉を確かめる
1つ目は、経営者を見ることです。会社はどこへ向かいたいのか。何に困っているのか。どの強みを次の成長につなげたいのか。経営者の言葉には、数字だけでは見えない意思があります。
2つ目は、現場を見ることです。業務、人、設備、オペレーション、情報の流れを観察する。現場を見ずにDX推進を語ると、どうしても抽象論になります。現場には、資料には出てこない小さな詰まりや暗黙知があります。
3つ目は、お客様を見ることです。ここで言うお客様は、支援先企業ではなく、その会社のお客様です。誰に売っているのか、どういう商流なのか、なぜ選ばれているのか。支援先企業の先にいる顧客を見なければ、本当の価値は見えてきません。
4つ目は、強みを見つけることです。経営者は日々の資金繰りや短期の課題に追われ、どうしても近視眼的になりがちです。外から入るFDEは、事業の収益構造や競争優位を見つけ、本人たちが気づいていない強みを言語化する役割があります。
| 視点 | 確認する内容 | 聞く問いの例 |
|---|---|---|
| 経営者 | 方向と優先順位 | 今回、何を変えたいですか |
| 現場 | 手順・例外・暗黙知 | どこで確認や待ちが発生しますか |
| 顧客 | 選ばれる理由と商流 | 誰に、どんな価値を届けていますか |
| 強み | 残すべき知見や仕組み | 変えることで失ってはいけない点は何ですか |
業種が違えば、同じ「DX」の意味も変わる
飲食業、小売業、卸売業、建設業、製造業、運送業、サービス業、医療、介護、宿泊。業種が違えば、困りごとの言葉も違います。同じ「DXを進めたい」でも、建設業の現場で意味するDXと、宿泊業の現場で意味するDXは同じではありません。製造業でのAI活用と、介護現場でのデジタル化も、当然ながら見ている景色が違います。
何が起きたか。地域の支援に入ると、「生成AIの勉強会を開いてほしい」「DXの相談に乗ってほしい」という声はたくさんいただきます。ところが、話を深く聞くと、実際の課題はツール選定ではなく、業務の見直し、人手不足、顧客対応、社内の合意形成、現場リーダーの育成だったりします。
そこで私が気づいたのは、FDEに必要なのは業種別の翻訳力だということです。AIやシステムの言葉を、その業界の現場の言葉に変換できなければ、支援は届きません。リスクは、支援者が自分の得意なテンプレートを押しつけてしまうことです。立派な提案資料を作っても、現場の人が「これは自分たちの話だ」と思えなければ動きません。
ヒアリングでは「忙しい」で終わらせず、どの時間帯に、誰が、どの情報を待っているかまで聞きます。業界の一般的な課題は仮説の材料にし、その会社でも当てはまるかを現場で確かめます。
本音が出るまでの対話も、実装の準備に含める
地域支援の現場で、私は何度か厳しい言葉をいただいたことがあります。「どうせお金がなくなったら帰るんでしょう」。これは、外部支援者に向けられるかなり率直な言葉です。補助事業やプロジェクトで外から人が来て、うまいことを言って、期間が終わったらいなくなる。そういう経験をしてきた地域や企業からすれば、当然の反応かもしれません。
何が起きたか。最初は生成AIやDXの話をしても、なかなか本音が出てこないのです。表面的には「いいですね」「必要ですね」と言っていただける。でも、現場の本当の困りごとや、経営者が言いにくい不安は、信頼ができるまで出てきません。
そこで私が気づいたのは、FDEの仕事は提案資料を作ることより、信頼関係をつくることだということです。対話からしか解決策は出てきません。社長が最初に言った一言が本当の課題とは限りません。話を聞いていくと、別のところに問題がある。社員のスキルセット、現場リーダーの不在、業務フローの属人化、顧客との関係、教育の仕組み。深く聞かないと見えてこないのです。
聞いた内容は、確認できた事実、相手の希望、支援者の仮説へ分けて残します。提案前に相手へ要約を返すと、言葉の受け取り違いを修正できます。
観察と仮説を、小さな実装の課題へ落とす
金融庁資料のように、業種別の支援視点を学ぶ意味は、全業種の専門家になることではありません。飲食業、小売業、卸売業、建設業、製造業、運送業、サービス業、医療、介護、宿泊。すべてを完璧に知ることは難しいです。
ここで生成AIは役に立ちます。業種別の論点整理、質問リストの作成、仮説の整理、研修コンテンツのたたき台、eラーニング化、現場ヒアリング後の議事整理。こうした作業はAIで速くできます。ただし、AIの回答にはハルシネーションのリスクがあります。金融庁資料や一次情報を確認し、支援先の現場情報と照らし合わせることが欠かせません。AIを信じるのではなく、AIを使って人間の確認力を高める。この姿勢が大切です。
最後に、誰のどの仕事を変えるか、何を確かめれば前進と言えるかを一文にします。見つけた課題を全部扱わず、現場が確認できる一つを選ぶ。目利き力は、この選択と振り返りを重ねることで育ちます。
よくある質問
FDEの目利き力とは何ですか?
技術の選択だけでなく、事業、現場、顧客、強みを理解し、改善すべき課題と実装の順番を判断する力です。
最初の面談でAIの提案をするべきですか?
まず目的、手順、制約を聞き、理解を相手へ返します。技術の候補は、その課題に合うかを確かめてから提案します。
全業種に詳しくなる必要がありますか?
全ての専門家になる必要はありません。業種ごとの違いを調べる視点を持ち、分からない点を現場や専門家へ確認します。
金融庁の資料はFDEの公式教材ですか?
本稿では事業理解の参考資料として紹介しています。金融機関等の事業者支援向け資料を、FDEの視点へ応用した説明です。
AIでヒアリング項目を作ってもよいですか?
下書きには使えます。内容の根拠を確認し、支援先の業務に合うよう直します。AIの仮説を現場の事実として扱わないことが大切です。
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著者紹介
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近森満(ちかもり みつる)
株式会社サートプロ 代表取締役CEO / DXコンサルタント/IT人材育成/検定事業化
IT技術者の教育支援と人材育成を専門とする事業化コンサルタントとして、2006年に株式会社サートプロを創業し、IoT検定・+DX認定・アジャイル検定などの資格制度を創出。独自の技術者向け教育研修の開発に定評があり、実践的なスキル向上を支援。経済産業省DX推進ラボおよびIoT推進ラボのメンターとして自治体や中小企業のDX推進を支援。近年は超知性ASIスキル可視化にも取り組み、次世代技術の普及に注力している。 |
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・IoT検定制度委員会 事務局長(IoT検定、+DX認定、超知性ASI検定)
・一般社団法人 IT職業能力支援機構 理事長(Android資格)
・電気・電子系技術者育成協議会 副理事長(E検定)
・組込みソフトウェア管理者技術者育成研究会 メンバー(組込み)
・ET教育フォーラム合同会社 代表(コンテンツ制作)
・経済産業省 地方版IoT推進ラボ ビジネス創出事業メンター(IoT支援)
・経済産業省 地域DX推進ラボ ビジネス創出事業メンター(DX支援)
・デジタル庁 デジタル推進委員(デジタル化支援)
・DX事業共同組合 設立理事(DX推進)
・一般社団法人日本サステナブルビジネス機構 幹事(SDGs認証)
・”一億総活躍社会を実現する”共生日本協議会 理事(DEI支援)
・アジャイル開発技術者検定試験コンソーシアム 事務局長(Agile検定)
・一般社団法人国際サイバーセキュリティ協会 事務局長(IACS認定)
